プロジェクトリーダーや設備エンジニアを育成する
モノづくりにおける人材育成について説明します。技術的な専門知識では、機械工学、電気工学、電子工学、プログラミングなどの学校で教えられる専門的な知識があげられます。製作現場においての技能というと、溶接作業、 組付作業、測定作業などがあります。しかし実際のモノづくり現場、特にスタッフとして最初のレールを引いていくプロセス、考え方、活動方法を理解させる人物というのは、実践と応用と修羅場をふんで成長して一人前になっていきます。新人レベルと違い、リーダーや管理職のモノづくり実践の育成は、なかなか体系だってありません。人材の三つのベクトルとして知識、行動意識、資質の要件を考えながら人材を有効に育てていきましょう。
- ① 人材育成の三つのベクトル
- ② 職場で最悪は、能力もやる気もない人でしょうか?
- ③ 「PM理論」でリーダーシップを観察
- ④ モノづくりの人材育成 4つの方法
- ⑤ 育成は仕組みとデータと帳票の嵐に走りすぎないこと
- ⑥ エンジニアは臆病な人、慎重な人に、むしろ資質がある
- ⑦ エンジニアとして望まれる人材
- ⑧ 知識と知恵は違う
- ⑨ 技術を教える文化、育てていただいてるという感謝の意識
- ⑩ 部下への指導は手を汚して後姿を見せる
- ⑪ 将来有望な若手は、優秀なリーダーのもとにつけること
- ⑫ 育成と虐待は紙一重
- ⑬ 上の者が楽をするには、役割を固定してしまうとよい。ただし管理者の楽がメンバーを伸ばさない
スタッフの人材育成の指標
1.人材育成の三つのベクトル
ものづくり人材を見極めて育成をするのに一つの見方として紹介します。メンバーを観察するときに三つのベクトルで判断してみるのもいいと思います。一つは能力、一つは行動意識、一つは資質で見てみるとわかりやすいかもしれません。
能力というのはものづくりをしていく上で必要な知識とか経験、技術力とか図面をよく知っていると言うことです。この項目はいろんなものづくりを勉強して座学とかマニュアルとかネットで技術を勉強することで伸びていく項目です。行動意識というのは、その人物が前向きに積極的に行動していく、 自ら活動していくといった、いわゆる元気な人といったところにあたります。この部分は若いうちから小さな成功体験をたくさん積み上げて、 自分が考えたことはうまく行ったり成功したりするような体験を積み重ねていって、 自信を持たせて元気付けるところに着けると思います。資質というのは生まれながらに持っている才能とかセンスに当たると思います。芸術家とかスポーツ選手だと才能という言葉が簡単に使われていますが、 ものづくりのエンジニアとか設計者なんかにもこのセンスはついて回ります。例えば色々な設計者にとってもこの人は非常に正確な図面を書くとか、 白紙の状態からすぐに手を置かして仕事を始めることができるとか、逆にこの人の書いた図面はいつも設計変更が数研後追いで出されてくる品質の悪いものである。こういったことがよく経験されていると思います。いわゆる設計者に向いているとか、開発者に向いているとか、営業の方ができるのではないのかといったところに結びつくかもしれません。
2.職場で最悪は、能力もやる気もない人でしょうか?
人物を判断する時にその人物が持っている固有の知識とか技術といった見方と、その人物が活動している行動力とか意識の高さといった見方があると思います。では一般的にものづくりをしている組織にとって最も役に立つ人はどんな形でしょうか。当然能力もあって行動意識も高い人は戦力になるのはもちろんです。それでは組織にとって最も重要でない人物はと問われると、能力がなくて、行動意識も低い人ということになりますが、果たしてそうでしょうか。その人は逆に言われたことはコツコツやる業務推進に役立てることができることも多いと思います。
組織にとって扱いにくいのは、能力がないわりに、やったら行動意識だけ強い人かもしれません。能力とはバランス感覚を伴ってうまく武器にできるものだと思います。能力が少ない割に行動意識が高い人物は、得てして自分で判断して自分で行動し始めてしまうケースが多いです。上司とかまわりに相談して始めるという慎重さもない割に暴走してしまうケースもあります。やたら張り切って、他のメンバーにやらなくていいことをやたら求めるケースもあるかもしれません。これが下手に、バランスのずれた上位の管理職だと最悪です。この人は意外と浮いていてメインの流れの業務から外れている場合も多いでしょう。いわゆる一匹狼というものかもしれません。しかしこの人が管理職でメンバーはとかチームを持ったとすると組織全体をとんでもない方向に暴走し始める可能性もありますので、 組織全体で注意してその人物を注視する必要もあります。
3.「PM理論」でリーダーシップを観察
専門的な心理学世界ではリーダーシップを発揮する人たちを分類するために、「PM理論」というのがあります。P機能は目標達成のために部下にはたらきかけることで、M機能は集団存続のために部下に配慮することです。このバランスにより、リーダーシップが成り立っているという理論があります。 P機能が高い人は結果を出すために積極的に行動して部下を叱咤激励してチームを引っ張ります。 M機能の高い上司は部下のストレスを和らげしてチームワークを重視し仕事を進めます。
中間管理職方たちは、会社の上位からくる無理難題をこなすためのP機能によるチーム活動の引っ張りと、部下を思ってストレス緩和のための人員や負荷調整に走り、出来ないことをお断りする行動も取ります。 (心理学 三隅二不二著 参考)
スタッフの人材育成の方法
4.モノづくりの人材育成 4つの方法
モノづくりにおけるスタッフリーダーの育成方法について、4タイプの方法について述べます。
一つは座学型です。教室で先生が大人数を対象に概要や事例について説明します。
二つ目は子弟型です。若手に対して、親方が現地現物で教えます。技能系の育成はもちろんですがエンジニア、設計者などにも有効です。
三つめは事務局展開型です。マニュアルや資料を配布して各人の独学に頼ります。近年ではeラーニングでネット上で教育することもあります。
四つ目は突き落とし型です。関係部署や海外協力会社に出向という形で修行に出したり、大きなプロジェクトに担当付けたりします。ただ、崖から突き落とすにしても見守るのと見はなすは違いますから、よくフォローは続けることです。
5.育成は仕組みとデータと帳票の嵐に走りすぎないこと
人材育成の成果は定量的に見えにくいものです。育成の手段である、しくみ、マニュアル、帳票が最終目的にならないことに注意してください。ものすごい一覧表やデーターで管理して、山のような進行状況フォローの帳票だけでは、事務局の独りよがりになります。教える人と教えられる人がモチベーションが高く、明るい雰囲気なら自然と人は育っていくものです。ここに掲載したのは、設備の企画、構想、設計について、業種は機械、電気、電子の事例を参考に示したものです。
例えば、人材育成の項目についての個人ごとのレーダーチャートがあるとしましょう。 レーダーチャートの各軸には、企画、構想、設計、制御、プログラム、CAD、FEMなどとチャートが数値化されます。ここで、やたら多方面にレーダーチャートが伸びている人が見られます。ほどほどの人や、むしろ使いにくい人は部署を転々します。結果レーダーチャートはまんべんなく広がり、素晴らしい能力を持っているように感じることになります。その方はいろいろなことを知っている素晴らしい人物でしょうか。本当に優秀な人は組織の長は手離さないものです。手放さない人はレーダーチャートは年数がたっても偏ってバランス悪くみえます。一見この方は能力がないように見えます。しかし、実態はこういう人こそ行動力や業務遂行力が素晴らしくて各組織が転職、異動させない人物です。通り一辺倒なレーダーチャートや指標に惑わされないようにしてください。
スタッフの資質とは
6.エンジニアは臆病な人、慎重な人に、むしろ資質がある
モノづくりにおいて、エンジニアが、少しでも「まー大丈夫だろう」 と設計に手を抜いた部分は必ず何か問題が起こるものです。 仕事によっては、官能的、定性的で物事が進むことも多い職場もあるかもしれませんが、技術系は、ごまかすと後で必ず、正直に 「倍返し」の不具合の山が来ます。
7.エンジニアとして望まれる人材
社会人としては、どこの会社も同じような一般的な人物を望んでいます。コミュニケーション能力があり、挨拶ができ、責任感があり、意欲がある、姿勢が前向き、ストレスに強い、性格が明るいなどの方です。もちろん社会常識を有し、世の中の情報に興味を持つ人で、世の動きから敏感に次の動きを考えれる人です
モノづくりのエンジニアリングリーダーとして望まれる人物については特に、モノづくりに対する情熱を有し、モノを造るのが楽しい、形を創造するのが面白いと考える方です。勉強のできる人より、仕事を粘り強く頑張れる人で、評論家より行動力がある人の方が頼もしいです。初めてのものを生み出すためには、創想像力があり工夫ができる、自分の頭で考え常に紙と鉛筆を持っていて手を動かして物事を考える、粘り強い、諦めずに、壁があってもくじけず、もがいて何とかしようという人です。
管理者の人材育成心得
8.知識と知恵は違う
多くの勉強をして、やたら知識を持っている人物は、えてして理屈、論理だけで物事をはこんだり、部下に指示や自分の考えをおしつけるケースもあります。しかし、知識だけでなく経験、体験を積んで自分でつねに手を汚している人の意見も論理ではかられない何かがあります。そこに知恵がかくれているので、うまく知恵と知識をバランスさせて物事、交渉を行うことが大切です。技術革新で大切なことかもしれないが、経験、体験を積んで自分でつねに手を汚している人の意見も論理ではかられない何かがあるものです。 そこに知恵がかくれているのでうまく知恵と知識をバランスさせて物事、交渉を行うことが大切です。
心理学専門書に「ダニングクルーガー効果」というものがあります。1999年にデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーの説明によると、能力の高い人ほど自分を過小評価し、能力の低い人ほど自分を過大評価します。一般的に、はじめは 自分を他人より優れていると錯覚しますが、経験を積んでいくと自分の能力を客観視できるようになって自信を失います。その後本物の実力を身につけることで本物の自信がつきます。これに陥っていると、最初は能力以上に自分を過大評価します。本人は自分を優秀だという思い込みが能力を超えているケースがあります。自己評価では「できる」と判断しても、納期に間に合わない、質が悪いなど、業務を処理しきれずに何らかの問題を起こしてしまいます。組織の中の管理職の立場にあって、一番初めの根拠のない自信により暴走してしまうと危険です。 (心理学 ダニングクルーガー効果)
9.技術を教える文化、育てていただいてるという感謝の意識
風土の悪い中小企業や組織体の中で一部ある技術伝承の一つの悪い事例です。海外の文化に近い困った傾向で、組織の中で自分が培った技術とかノウハウを後輩とか組織内部に積極的に展開する風土が少ない場合です。
大きな風土の良い企業や活気のある組織では、各人が培ったノウハウをベースに、成果とか進捗を積極的に組織へ向けて PRし、かなりの工数をかけて内外への向けて情報発信、ノウハウ発信が行われています。組織全体としては非常に体力をつけながら成長していく風土があります。
ところが海外の文化に近いモノづくり風土の場合は、こういった自分が培ったノウハウを積極的に周りに展開してもすぐに成績に評価されるわけでもありません。また、むしろ忙しい自分の時間から、こういった資料作成の作業に工数を取られるのが非常に嫌がります。また、もう一歩進んで考えると後輩を育てると自分のポジションがなくなるといった危機感も非常にあるために積極的ではないのです。ある現場の技能系職場の場合、事例を述べます。ある非常にベテランの作業員は工作機械の使い方を後輩や周りの人に伝授することなく自分が仕事を溜め込んで、それを土曜日の残業に当てていることで生活残業時間を稼いでいたと言う事例がりました。技術技能も偏るし、組織も衰退していきますし、後輩の育成ができません。
若手の方は、メンバーに対しては、白分が育ててもらっていると感じてほしいです。ライオンは子供を谷底へ落とすとは、ただ自分を守るためにつきはなして落とすのか、失敗した時のリスクを自分が責任を取ってでもあえて育成のためつき落とすのか、よく考えることです。
10.部下への指導は手を汚して後姿を見せる
モノづくりリーダーの立場の方は、部下やメンバーには、はじめの一歩を示すことです。抽象的な指示を出すだけでは駄目です。手順、着眼点、思いを作戦として指示することが大切です。部下に対しては、トップから言われたことをそのまま落しても駄目であります。目線を下げて、部下と同じように具体的な仕事に手を汚して、行動力や、苦労しているところなどの後姿を見せるのも大切です。いつも口ばかりで上から目線だと部下は疑い始めます。たまには自ら見本をしますことで育成を図ることです。
モノづくりリーダーは、口だけで何もしない人より、全く別の作業でもいいから、自ら手をよごして苦労をしている姿をまわりの人は見ています。指示一つにしても、日頃手をよごす人からの指示と、口だけの人からの指示では下のメンバーの動きが違うものです。全てが出来る人物はいないが、何か一つ自信をもって行える業務を持ち、常に手を汚している人が若い人からの信頼も得やすいです。
11.将来有望な若手は、優秀なリーダーのもとにつけること
将来有望な若手は、優秀なグループリーダーにつけることです。ダメなリーダーにつけても十分に活かせることは出来ないし、成長も出来ないと思います。優秀なリーダーは、上司や、関係部署などとうまく連携していきます。その後ろ姿を見せることが若手の成長につながります。教科書にないいろいろな経験を一緒にさせることです。
もう一つ、優秀なリーダーはその後出世していくと思います。 その時、一緒に苦労してきた昔の若手も一緒に協力して仕事に参画していくことで、より大きな仕事に就けて活躍できます。
12.育成と虐待は紙一重
現代では少なくなりましたが、ひと昔前まではパワーハラスメント的に部下の指導している上位の人が見受けられたと思います。 愛情を持って激しい口調で育成するのもいいですが、 最近の若い人たちではこれがパワーハラスメントだということで、虐待に繋がるということも認識しておいてください。 人材育成の方法について、「育成と虐待は紙一重」 です。
一般的には「叱る」より「ほめる」方が、能力を引き出せることがわかっていますが、ミスをした部下や後輩を叱る注意点です。叱ることは、心理学的にいうとヒトに行動を起こさせる「外発的動機づけ」です。 基本的に叱ることはデメリットが多いが、叱るなら相手を尊重してすぐに、手短に行うことです。そして まずは周りに人がいないところで叱ります。 また叱る時は目線の高さを同じにして使うことが大切です。 (心理学 立正大学 斎藤勇 著)
13.上の者が楽をするには、役割を固定してしまうとよい。 ただし管理者の楽がメンバーを伸ばさない
組織の所属長にはいろいろな事件がめぐってきます。組織長が組織の分担を決めるときに二つの方法について述べます。役割固定タイプとフラットタイプです。役割固定タイプでは、あらゆる出来事を予測してすべてに担当が振り分けれるように事前に言い渡しておくことです。どんな出来事が起こっても組織長にとっては、毎回仕事の負荷調整で苦労する必要がなくなるし、トラブル、突発の業務もどこかのチームとか担当者とはっき責任が決められます。組織長は負荷調整をしなくてもひたすらその担当チームに依頼するだけで変に悩むことがない楽な采配になります。あまりいざこざは起こりません。しかし、デメリットとして、メンバーは仕事にアキがきたり、負荷のピークがある一部の人員にかたまってしまうことがあります。ノウハウが蓄積され、失敗は少ないが、量には限界があります。
もう一つのフラットタイプでは、各チームや担当者に役割は大まかしか決めていません。組織長は毎回事件が発生したり想定外の依頼が来たりしたときに、調整が必要になります。 各グループ・メンバーは自分のチームや担当員の負荷をうったえてくるため、下に対しての 説得、依頼、負荷の調整に苦労します。また、突発は責任が不明のままトップにまず来るため、下にふるままで忙しくなってきます。 また、人が次々変わるため、上がしっかりノウハウを展開しないと、毎回ゼロから業務のスタートとなり同じ失敗をくり返すことが多くなります。但し、この構造は、メンバーが色々業務を変えられるため、やりがい、向上心がのびることがありますし、組織長がしっかり毎回ふかちょうせいをするので、常に多くの業務がこなせます。リーダーは大変ですが、仕事量のアップやメンバーは成長します。