本当に怖い機械の不具合 プロセスと対応

 皆さんは、大学や各種専門組織で多くの技術を勉強してきています。しかし、専門知識を活かした本当に身についた技術というのは、多くの失敗事例や修羅場から学ぶことが一番近道なのです。過去に○○さんが失敗した事例とか、講演会で聞いた出来事とかを頭の隅に記憶していて、自分のクリエイト活動、構想段階で、ポイントに気が付いて一度チェックして確かめようという行動が大切です。

  不具合やリスク、ことの重大さに気が付くことだけで、70点は防ぐことができます。ことの重大さに気が付かない幸せ者が一番危険なのです。自分が設計したり不具合に直面したりした時に、頭の隅にあるか、全く白紙で途方に暮れるかでは大きな違いと差がでてきます。

  • ① 1年後の時限爆弾
  • ② 数物不具合のドミノ倒し
  • ③ 品質バラツキの怖さ
  • ④ 不具合防止の心がけ
  • ⑤ 不具合発生時の修羅場

① 本当に怖い不具合 1年後の時限爆弾

1.1年後の時限爆弾

 機械の不具合の中で一番恐ろしいのは、納入した後1年ぐらい稼働しているときに、いきなり機械が停止してしまうようなドカ停が重大です。機械を使用する工場に納入して動き始めのころは全然問題なく、稼働して1年後ぐらいたった時にある日突然異常が起こるといった問題です。こういった不具合を 「時限爆弾」と言って、はじめは検査や評価をすり抜けるけど1年後に大問題を起こすようなことです。

2.不具合に対しての騒ぎの消し方

② 数物不具合のドミノ倒し

3.汎用機械、リピート機の不具合ドミノ倒し

 機械メーカーにとって、不具合で恐ろしいのは、その機械のみより、その不具合の波及影響に心配を注ぐべきです。 1~2台の専用機械だけなら、その対象設備のみ大変更してでも修正すればよいです。しかし、台数が何台もある物は、その横展を考えると大変であります。 こういった不具合は、納入して立ち上がって1年後に発覚するということがあり、この時はすでに十数台納入後という状況です。

  (知識ゼロでも楽しく読める心理学  立正大学斎藤勇 著より 西東社))

4.ボヤの初期消火が大火を防ぐ

 不具合が発生したときは、ボヤの初期消火が大火を防ぎます。不具合が起きたラインは、対応やリスポンスが悪いと、そのライン担当の方は話を上に報告しますが、それだけでは済まずに、社内の大きな会議体や他社との会議体でこの話が広がっていきます。聞いた他社や各生産ラインの他組織は心配のため確認に走りはじめます。それが広がり、まったく問題の起きてない他の工場や組織も自分の担当のラインをすぐに調査、確認、対応してくれと騒ぎ始めることになります。色々な関係者は状況を知っておかないと自分も回答できないということで、報告会とか説明会がセッティングされていきます。

  対策を緊急で考えている設計者のチームとかリーダーにとっては、分かってはいるけど今は静かに原因究明と具体的対策に専念させて欲しいというのが本心でしょう。 こういった状態を 「溺れる者に石を持たせる」 という表現が当てはまると思います。

5.使用の条件や状況を分析して優先度付け

 類似機械がたくさん展開されている機械の各使用条件の違いで対象か対象出ないかを分離します。 生産タクト、使用年数、生産製品、保全状況、異常のセンサリング内容について使用条件で分類をします。不具合改修の必要件数をしぼり込み、優先度を分類して対応する計画を行います。

 対象機械はその機械の設計リーダーが一番よく知っています。 また、機械の使用部署は、意外と他の工場の機械までいちいち気にしていないものです。よって、設計部署が自ら進言する情報がスタートとなることも多いです。書面上でしぼり込みを行って改修対象をしぼり、優先度も整理します。

  設計者は前回図面をリピートします。 初回の設計者は深く検討して、完成度の高い物を設計しているはずです。しかし、その後の設計者は細かい違いがあって、バージョンを変えながら転用することが意外と多いです。見た目の機械は同じ機械でリピート機と見えるかもしれませんが、部品の一体化とか、コスト低減とかで実は図面は微妙に違うという世界が結構あります。 この状況を把握して、問題発生部分を整理分類してみてください。

6.設備のセンサリングなどのIOT

 重要部位で生産製品品質に影響を及ぼす機械部分。加工状況が目で見えなくて定期点検便りの部分。こういった部分には近年、予防保全としてIOTの動きが市場によく紹介されています。

モーターの電流値や回転部分の振動測定など、いつもと違うぞといったデーターをとれることを考えてみてください。 新たなビジネスにもつながりますよ。

7.開発評価をしっかり実施する

機械を開発したつもりでも1年後になって不具合が発生してしまいました。耐久性から来た問題です。 評価期間が十分取れなかったことと、実験室の環境と実際の量産ライン内での環境の違いもあり、無理して使用しているうちに耐久的な不具合が発生してしまったということです。

 開発で注意することです。

  ① 開発段階で厳しめの条件をクリアーするまでしっかり評価することです。

  ② 1台目を導入してしばらく間を開けて、2台目以降を導入するようにしてください。想定外の問題も発覚しますので、初号機の膿がでてくるまで2号機の導入を間を開けるといった計画が大切です。

  ③ 納入する複数台の製作経緯をトレーサビリティを残すことが大切です。問題が起こった時に、使用部品や加工部品、納入時の検査結果、使用条件などをしっかり記録しておくことです。問題発覚の時に、条件分けや優先順位付けに役立ちます。

品質バラツキの怖さ

8.品質バラツキの不具合

 加工機は加工精度が寸法以内に収まること。組付機では、曲げ、伸ばし、圧入、組付後の寸法が精度以内に収まることが重要です。そしてその段階で製品に傷やシワ、打痕などが無いことが必要です。

  ここに示す事例は、成形加工での見つけにくかった頻発不良です。毎回傷がつくのは意外と原因究明しやすいですが、20個に1個傷がつく状況は、なかなか原因を特定するのが難しい面があります。確認テストピースの数や調整期間をしっかり 最初から計画しておいてください。

 

 機械の製作会社はテストピースの数も限りがあり、数百個に1回発生するような不具合については、設備の調整搬出の段階ではなかなか見つかりきれません。 納入した工場で、稼働して初めて騒ぎが起こります。 最初の計画や見積もり段階で、納入後のドタバタの工数を入れ込んでおくことも大切です。

 生産現場では立ち上がりは大変忙しくて、機械が故障してもすぐにごまかしてでも復旧して、原因もつかめない状況で生産をキープする状況が続きます。そんな中で低頻度の不具合が発生したときの原因究明はなかなか思うように時間が取れないものです。計画段階で機械の流動のための確認時間を織り込んでおくことが大切です。

9.検査装置の良品ばらつき不具合

製品品質の検査装置についての話です。

現状の人間のOK/NG判断は、意外と官能的なところや閾値が怪しい面があるものです。検査する人によっても昼勤夜勤のばらつきもあることでしょう。この状態で機械による検査を実施すると、NG品の閾値を厳しめにするため、正常と人では判断していたものを機械はNGと判定することになります。つまり「嘘つき」判定となって、ラインの運営をしている人からは稼働率や直行率が悪いというクレームになってきます。

不具合防止の心がけ

10.設変3悪  あたる、動かず、組付かず を常に自問自答

 機械を構想するうえで、特にメカ設計者なら次の3つの言葉を肝に銘じておいてほしいです。「当たる、動かず、組付づ」 という言葉を心がけてください。多くのメカ設計の不具合はこの三つにあたるミスです。

あたるは、いわゆる干渉する不具合で、ワークの搬送や、ユニットの動作時に他の物とぶつかることがないように設計することです。配線や配管をひっかける矢こすれるといった問題も含みます。

動かずは、パワー不足やガイドの摺動抵抗が大きかったりして動作不良を起こすことです。速度が足りないといった問題だけでなく、ブラケットやフレームの剛性が弱い、ねじれる、歪むといった項目も含みます。振動や材料の選定、動くスピードとか加減速もしっかり計算して考える必要があります。

組み付かずは、絵で描けてもそれを組み付けていく順番を考えると、入り込まない、芯が合わないといった組付け問題が発生することです。「組付かづ」は機械を作っていく上でよく起こることです。精度を確保するための組付ける順番が成立してない、作業スペースが取れない、組付け精度や考査の問題も考慮に入れる必要があります。機械を据え付ける芯出し方法とか、レベル調整方法、隣の機械との芯出し合わせ方法も検討してください。機械を使う作業車のアクセススペース、機械を保全する時のスペース、制御盤内作業スペース、もあります。

11.品質不良、ミスの低減は後工程の痛みをいかにわからせるか

品質不良や機械の不具合の低減は、後工程の痛みをいかに分からせるかが大切です。自分たちが生み出した機械の完成度とかを確認するためには、後工程の痛みをわからねば設計のミスは減りにくいです。品質不良とか機械の製作上の問題といったものは、設計者は好きでミスしているのではないのはよくわかります。ただ、頭ではわかっていても意外と腹に落ちてないとこもあると思います。一度生産現場に出向いて行って、自分が納入した機械の調子がうまくいってなくて、作業者が毎回機械に入って各個で操作しなおしているような作業現場を目の当たりに見てもらうのがよいと思います。後工程の痛みがわからないと不具合慣れして来て、ついつい手抜きが多くなることもあります。手を抜いて設計したところは正直なほど後で何らかの不具合が発生している物です。機械を使っている他部署やお客様の痛みをしっかり見たり、体験したり、ローテーションしたりして、モラル向上につなげてください。

 確実な機械を設計するには機械の不具合をしっかり記憶して防止しなければなりません。心理学では、記憶を保持するには、「感覚記憶庫」「短期記憶庫」「長期記憶庫」の3つの貯蔵庫があるとしています。感覚記憶庫は、目、耳、鼻などの五感から入るがほとんどは1秒以内に消えます。残った情報が短期記憶庫こ送られますがここでも数分以内にほとんどが消滅します。しかし、印象的だったり、リハーサルされたりした短期記憶は長期記憶庫へと送られます。私たちが「記憶」と呼んでいるのはこの長期記憶庫のことで、必要に応じて取り出して、利用することができます。

  設計者にとって機械のトラブルというのは自分の実力を上げる糧の一つです。 ほとんどの出来事とか情報、教科書とか先輩から設計の注意事項を聞いただけでは短期記憶で終わります。しかし自分がその状態に遭遇されて失敗して大変目に合うと長期記憶として自分の経験の中にとどまってきます。内容が腹に落ちるということです。

不具合発生時の修羅場

12.管理者としての自分を守る

 一人のプレイヤーとして組織で働いていても、 どこかで管理者とかリーダーとして振舞ってくれ、という時期が必ず来ると思います。その時に担当者と管理者との違いをしっかり認識することです。何もかも自分一人で頑張っていたプレイヤーから、チームで動くという立場になった時に自分が先頭に立ってやること、 その後メンバーが一人で走り続けるようにフォローしていくといったことを考えてください。いろいろな場面での発言も、一人のプレイヤーとしての目線からの発言でなく、 組織のリーダーとしての一個上位の目線で物を考えて発言するように心がけることです。そして、管理者としての自分を守ってください。自分のせいでなくても自分の組織の不手際は、全てリーダーである自分に戻ってきます。自分の仕事は二の次にして、部下や後輩のフォローを第一に行ってください。

13.攻撃は最大の防御

 機械の不具合やトラブルが発生し、急遽会議を開催したときの嬉しくない事例です。自分にも少しは責任があるような物件についての、トラブル、不具合についての議論、説明会等に参加した場合には、質問がきて弁解の側にまわるより、攻撃の側についたほうが質問、追及の嵐から避けれるといった姑息な行動です。 特に、問題を起こした担当者に対して自分が上司やサポート役のときの事例です。担当者Aさんから一通りの説明が終了した後のことです。関係者と思われていたBさんが、Aさんに対して多少強めに攻撃的に質問とか状況を説明するように声をかけました。 一部の他の人は、同じ立場なのにAさんの仕事を把握していなかったのか、それでAさんを今攻めているのかな と思っています。他の人からは失敗はAさん一人という風に写っています。もし、BさんがすぐにAさんのフォローに走れば、参加者はAさんとBさんに対して、説明や申し開きの雰囲気になってしまいます。上司の立場のBさんはAさんを切り捨ててわが身を守ったことになります。Bさんはこれで、皆からのプレッシャーをかわすことになりましたが、部下からの信頼を大きく欠くことになります。他の知ってる人は、器の狭い上司だなと認識されます。 この行動はやめてほしいことです。

14.再発防止は何が悪いより、だれが悪いで追及

 何か機械の問題が起きたり、業務遂行上で問題が起きた時に、会議体で話題になることもあると思います。このときに、現象だけ議論して何が悪いだけで終わることが多いと思います。しかし、再発防止をして行こうとすると個人の人間とか組織まで原因を踏み込むことになります。 何が悪いだけでなく誰が悪いというところまで話を突き詰めると結構心には止まるものです。組織全体はギクシャクして息苦しいものになるかもしれません。ですから、雰囲気だけは個人を叩くというのではなく、今後はしっかり注意してさらに成長していきましょう、という雰囲気を出して今後につなげていってください。

15.機械設計のミスを低減する  段階的チェックシート

 設計ミス低減で、各ステップでのチェック項目を決めておく方法があります。チェックするタイミングでは、その能力を持った上司とリーダーが参加します。その後に次の詳細設計に移してきます。各段階で毎回、大勢の関係メンバーを集めて議論して検図すると言ったのも効率はよくありません。

 機械の受注が決まる前の見積段階の話です。見積り構想図のラフ図面で終わりますが、この段階が重要です。リーダー、有識者の人たちを集めて、図面を見て意見を伺ってください。見るべきところは、細かい項目ではなく、仕様にマッチしてるか、機能的に問題がないか、 製品品質をキープするために確実な加工点の機能を有しているか、サイクルタイムは間に合うか、もっと低コストにする大きな購入品選定と加工部品の構造見直しは必要ないのかといった点を見てください。 一担当者ではついついユニットとか図面の中に入り込んで、周りが見えなくなっているためにそういった面からアドバイスとか確認の話を進めてまいりましょう。

 次に組付図が完成する段階において、チームリーダーと先輩、設計担当者が集まって議論します。ここでは 「設変3悪」 と呼ばれる、当たる、動かづ、組付かずといった切り口でチェックしながら進めてください。特に近年は三次元図面になっています、外観ばかりでなくスピンドルとか軸受、マニホールドといったような内部が重要な設計部位については、断面をとりながら確認するといったことも必要です。

大きなチェックから小さなチェックにフォローのタイミングと人選によって検図するわけです。

16.機械設計のミスを低減する   設計者の育成

 不具合、失敗、成功事例を組織全体で広く共有化することで各設計者の頭の隅に情報をインプットしてもらいます。誰かがミスをして大きな設計変更した場合でも、ほんの少しでもいいから工数をかけてA4の1枚でも2枚でも起こった出来事とこんな注意をしましょうという「失敗成功メモ」を作成し、各組織ごとに共有化してください。

 ここで注意することは、ほんの5分で終わること、皆からの非難の的にならないようにすることです。失敗した人が皆の前で説明するのに対して突き上げたり責めたりするような雰囲気を作らないことです。自分が起こした不具合を前向きに再発防止を説明して行くというのが重要です。話を聞いた人は隅から隅までちゃんと理解するわけではありませんが、自分が構想図や設計図を進める中で、そういえばこういったケースは前に○○さんが不具合の紹介をしていたな、と気づけばいいのです。頭の片隅にでも入っていて、気が付くだけで70点から80点は取れます。

17.設計構想時のデザインレビューの実施で助かる

  機械の構想設計者が行う会議体で「設計デザインレビュー」というのがあります。これは、一人の設計者が考え抜いて描いた図面の中にもまだまだ不具合の危険性を含んだ項目がたくさん潜んでいるため、自主的にこれを関係者やベテランの方に見せて、周りから意見をうかがうという行動です。周りから気づきや助言をいただくことで「あー助かった」という事例は多いです。

 

18.機械設計のミスを低減する  検図のメリハリ

 ちょっと姑息なところもあるかもしれませんが、徹底的に検図する部位と、ある程度目をつむって出図し、後で問題が起こったらその場で直してしまえばいいという不具合が混在しております。

 ベース、サブベース、メインフレームといった大きな部品は、もし寸法的なミスでもあれば分解してもう一度、大型加工機で忘れていた穴やタップを加工するといった大きなやり直しになってしまいます。また、ベアリングみたいにユニットの中心に位置して、組立に手間がかかる真ん中の部品についても徹底的に検査しておきます。これは当然あとで不具合が起きると、せっかく組付たユニットをもう一度中心まで分解するといた大変なやり直しが発生するからです。

  これに対して、後で何ともなるといった部品も実はあります。 安全柵、カバー、配線や配管のサポートブラケット、いろんなユニットの先端についている小さなコマの部品とは、多少変更が出ても後で修正しやすいものです。もちろん修正する人にとっては大変なことですので、設計者としては余裕が許す限りこういった部品も検査することが大切だということを忘れないようにしてください。

19. 品質不良、ミスの低減は後工程の痛みをいかにわからせるか

 機械の完成度アップは、後工程の痛みをいかに分からせるかが大切です。品質不良とか機械の製作上の問題は、設計者は好きでミスしているのではないですが、頭ではわかっていても意外と腹に落ちてないとこもあると思います。一度生産現場に出向いて行って、自分が納入した機械の調子がうまくいってなくて、作業者が毎回機械に入って各個で操作しなおしているような作業現場を目の当たりに見てもらうのがよいと思います。

機械のトラブル事例については現在追加工事中です

大手と中小企業で30年以上にわたって自動車のあらゆる生産機械をクリエイトする仕事をしてきました。機械を開発、設計、製作していくそれぞれの組織や立場における事件と行動、白紙からモノを考える技、会議やプレゼン、技術的トラブルについて参考になればと思っています。

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